P.コフマン編『フロイト&ラカン事典』(佐々木孝次監訳、弘文堂、1997年)の訳文訂正について

 ある日、弘文堂の編集を手伝っている者だと名乗る京都大学院生から、映画関係の訳語を校閲してほしい旨、依頼があり、もとより京都大学の高名な精神分析学者の紹介できましたというその学生の言を信じて、わたしはフランス語と映画学に通暁した院生を紹介した。すでに訳文はできあがっていたが、映画関係の箇所は惨憺たるものだったので、わたしの紹介したくだんの映画学院生がフランス語と映画学関係の訳語を校閲し、弘文堂の編集を手伝っている者だと名乗るその京都大学院生と翻訳者の双方に校閲文書を手渡したところ、かれらはともにその訳稿を東京の弘文堂編集部にしかるべき時期に手渡すことを怠り(それについては翻訳者からしかるべき謝罪の文書を得たが)、とにかく読者の手元にはわたしの紹介した院生の名前が共訳者として印刷されながら、彼女の苦労が反映されていない杜撰きわまりない翻訳書が流通することとなった。この不幸な事件を以下のようなかたちで補完しておき、共訳者として名前が印刷されながら、その苦労を踏みにじられた院生の名誉の回復を期しておきたい。

加藤幹郎(京都大学総合人間学部・同大学院人間環境学研究科助教授)

 

 

『精神分析と映画』の映画に関わる訳語について(北田理恵)

 原文に出て来た順に名称/単語別に説明します(ただし◆は不明箇所です)。

 参考までに邦題・仏題以外に原題もつけました。

 

p.480左

Geheimnisse einer Seele→邦題『心の不思議』の原題(独語)

                [仏題les Mysteres dune ame

Georg Wilhelm Pabst:カタカナ名はゲオルク・ヴィルヘルム・パプスト[×パブスト]

Werner Krauss:カタカナ名はヴェルナー・クラウス[×ウェルナー]

Eisenstein:カタカナ名はエイゼンシュテイン[×エイゼンシュタイン]

le Lys brise→邦題『散り行く花』[原題Broken Blossoms(1919)]

Pour lindependance→邦題『アメリカ』[原題America(1924)]

la Fille du pirate→邦題『願かけ指輪』[原題The Wishing Ring(1914)]

lOpinion publique→邦題『巴里の女性』[原題A Woman of Paris(1923)]

le Voleur de Bagdad→邦題『バグダッドの盗賊』[原題The Thief of Bagdad(1923)]

Raoul Walsh:カタカナ名はラウール・ウォルシュ[×アウル」

King Vidor:カタカナ名はキング・ヴィダー[×ヴィドール]

The Sky Pilot(1921)→邦題『曠野に叫ぶ』

Eric(h) von Stroheim:カタカナ名はエーリヒ・フォン・シュトロハイム[×エリック]

les Rapaces→邦題『グリード』[原題Greed(1923)]

les Fiancees en folie→邦題『セブン・チャンス』[原題Seven Chances(1925)]

Charlot:チャップリンまたはチャップリン映画の登場人物の仏語の愛称。英語のCharlie。この場合「シャルロ[またはチャーリー](チャップリン)」とでも訳すべきでしょうか…

[×シャルロット]

la Ruee vers lor→邦題『チャップリンの黄金狂時代』[原題The Gold Rush(1925)]

 

p.481右

Film-Kurier:「フィルム・クリール?」Kurierはドイツ語で急使、伝令の意。ドイツ語は詳しくないので参考まで。

parlant:トーキー(映画)の意。この単語はmuet(サイレント、無声映画)に対して一般的にトーキーを表すために使われます。

 

p.482右下

◎原文p.482の右段下から17行目のsecretderriere la porte》と言う表現はフリッツ・ラング監督の1948年の作品le Secret derriere la porte(仏題)」 →邦題『扉の蔭の秘密』[原題Secret Beyond the Door]にかけて使われていますので、これを参考にして訳してみてはどうでしょうか?

[細木さん訳:ドアの後ろ]

 

p.483左中

les Temps modernes→邦題『モダン・タイムス』[×モダンタイムズ]

 

p.484左上

cinema Urania:この場合のcinemaは映画館の意味。Uraniaは映画館の名前。この場合、映画館「ウラニア」、「シネマ・ウラニア」くらいの訳でしょうか…

 [×映画「ウラニア」]

 

p.485右中

Movieland(Jerome Charyn):?(全く不明です)


『フロイト&ラカン事典』P.コフマン編、佐々木孝次監訳、弘文堂、1997年

 第二部「精神分析と映画」(久保田泰考担当、431-437頁)

映画タイトル、人名関連正誤表(北田理恵作成)

 

 頁 行     誤    正

431 左 20  ゲオルグ・ウィルヘルム・パブスト → ゲオルク・ヴィルヘルム・パプスト

431 左 22  ウェルナー・クラウス   → ヴェルナー・クラウス

431 左 30  心の不思議            → 「心の不思議」

431 左 33  エーゼンシュタイン   → エイゼンシュテイン

431 右  5 「le Lys brise」          → 「散り行く花」

431 右 5 「Pour lindependance」       → 「アメリカ」

431 右 6 「la Fille du pirate」       → 「願かけ指輪」

431 右  7 アウル・ウォルシュ        → ラウール・ウォルシュ

431 右 8 「le Voleur de Bagdad」       → 「バグダッドの盗賊」

431 右 9 「lOpinion publique」 → 「巴里の女性」

431 右 12 キング・ヴィドール        → キング・ヴィダー

431 右 12 「The Sky Pilot」 → 「曠野に叫ぶ」

431 右 13 エリック・フォン・シュトロハイム → エーリヒ・フォン・シュトロハイム

431 右 14 「les Rapaces」           → 「グリード」

431 右 14 「les Fiancees en folie」 → 「セブン・チャンス」

431 右 15 エーゼンシュタイン        → エイゼンシュテイン

431 右 16 シャルロット           → シャルロ(チャップリン)

431 右 16 「la Ruee vers lor」        → 「チャップリンの黄金狂時代」

432 左 39 パブスト      → パプスト

432 右 34  パブスト             → パプスト

432 右 41  語るもの(トーキー)       → トーキー

432 右 44  語るもの(トーキー)       → トーキー

433 左  7  語りのない            → トーキーでない

434 左 16  「ドアの後ろ」          → 「扉の蔭」

434 右 12  「モダンタイムズ」        → 「モダン・タイムス」

434 右 14  語るもの(トーキー)       → トーキー

434 右 22  ルミエール兄弟          → リュミエール兄弟

435 左 33  映画「ウラニア」         → 映画館「ウラニア」

436 右 22  ルミエール兄弟          → リュミエール兄弟