bplist00�_WebMainResource� ^WebResourceURL_WebResourceFrameName_WebResourceData_WebResourceMIMEType_WebResourceTextEncodingName_?file:///Users/uedamayu/Downloads/hirai-article-2011-sample.htmlPO�G CineMagaziNet! no.16 社会組織に生きる人間のおどろくべき日常現実

社会組織に生きる人間のおどろくべき日常現実
土本典昭、鈴木一誌編著『全貌フレデリック・ワイズマン ―― アメリカ合衆国を記録する』
(岩波書店、2011年)

 

 世界映画史上、最高レヴェルの映画作家のひとり、それがアメリカのフレデリック・ワイズマンである。同じ1930年生まれのフランス(スイス)のジャン=リュック・ゴダールと並ぶ真に革新的な映画芸術家である。むろんワイズマンは社会派ドキュメンタリー映画監督として知られ、ゴダールはフィクション映画の驚嘆すべき刷新者として知られている。しかし映画芸術とは、フィクションとドキュメンタリーという一見、相反する創造領域においてすら共通する、映画観客の感性と理性を、もろともに変革させる大いなる意義をもつものである。
 フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画が傑出している理由は、彼の映画テクストがあらかじめシナリオをもたないからである。彼は、もっぱらアメリカの社会組織(学校、病院、軍隊、ストア、動物園、議会、裁判所、福祉事務所など)に帰属する人間を主たる対象に丹念にキャメラを廻し、膨大な量の撮影フィルムから一本の映画テクストを編集構成するが、その卓越した創造的手腕のなかから見えてくる(聞こえてくる)ものは、アメリカの社会組織にかぎらず、ほぼ全世界の近代社会機構に普遍的に観察されるであろう、組織構成員(社会人)たる人間が、それぞれの組織内で、一見、合理的かつ正当的に社会的価値を担っているとみなされているがゆえに同時代的には疑問視されがたい非倫理的な社会的規約/制約のなかで生きざるをえない人間の日常細部の蒙昧性、そしてそれを改善しようとはしない人間社会の守旧的イデオロギー支配である。
 本書『全貌フレデリック・ワイズマン』は、その3分の1ほどの分量をしめるワイズマンとの長時間インタヴューが、ワイズマン本人によって、彼の映画テクストを想起させるほど精妙な加筆編集がほどこされているがゆえに、ゴダールやヒッチコックをふくめた旧来の超一流映画作家たちのインタヴュー集を圧倒する傑出した書物となっている。また本書のサブタイトルが「アメリカ合衆国を記録する」というのもアイロニカルに絶妙である。というのも、これほどすぐれた映画作家たるワイズマンですら、つぎのような発言をして、まさに彼がユダヤ系であるがゆえに純然たるアメリカ人であることが明らかになるからである。すなわち「殺しは常に野蛮で、サディスティックで残忍なものだ。第二次大戦中や1930年代のドイツ人、日本人、もしくは鉈で虐殺をつづけるルワンダ紛争など、人間の残酷さの歴史には際限がない。」まさにその通りであるが、アメリカ合衆国が終戦間際に、日本に絨毯爆撃や原爆投下をし、その後もヴェトナム戦争や湾岸戦争に代表される数えきれないほどの政治的/経済的武力介入をつづけてきたがゆえに、アメリカ合衆国もまた「1930年代のドイツ人、日本人」に劣らず、長年、非人道的な覇権国家であったのだという自覚が多少たりないからである。それはアメリカ人映画作家ワイズマンがアメリカ社会のイデオロギーの日常的実態を精緻に観察告発しながら、みずからも完全にそこから自由になりえていないことを物語っている。
 そしてそこに本書の編著者のひとりたる土本典昭の有意性が浮かびあがる。土本は日本を代表する突出したドキュメンタリー映画作家のひとりである。彼の一連の映画テクスト内にも、ワイズマン映画同様、社会との軋轢と社会による保障との相矛盾する現実のなかに生きる人間の日常生活のおどろくべき細部が慧眼にも表出される。それはドキュメンタリー映画作家土本典昭以外、誰もが見落とさざるをえない細部ゆえの至上の「現実」である。それほど優秀な日本のドキュメンタリー映画作家がワイズマンの映画テクストを分析するのであるから、本書は映画の観客=読者にとって至福の書となるであろう。
 さらなる醍醐味は、本書の4分の1以上の分量をしめるワイズマンの全テクストの精細な解説である。わたし自身は1990年にUCB(カリフォルニア大学バークリー校)で初めてワイズマン映画に接して以来、神戸ファッション美術館や山形国際ドキュメンタリー映画祭などで、彼の映画テクストを堪能してきたが、今年2011年には、彼のほぼ全テクストたる36本もの映画レトロスペクティヴが日本各地で開催される。本書とともに、ワイズマン映画を見れば、これまで見落としてきた、社会機構のなかで生きざるをえない人間の幸福と不幸の両面性の核心が現実的、芸術的迫力で見る者にせまってくることだろう

 

(『週刊読書人』2011年10月28日号より)

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