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ヴィクトリア・ハーバーの風に吹かれて――第26回香港国際映画祭報告 サイレント・フィルムの雷鳴――第20回ポルデノーネ無声映画祭報告

ポスト初期映画に溺れる

ポスト初期映画に溺れる
――オランダ映画博物館(フィルム・アーカイヴ)収蔵作品調査
             

加藤幹郎


 
ランダ映画博物館は運河の街アムステルダム市内にあり、レアな初期映画の収蔵でつとに有名なフィルム・アーカイヴである。同映画博物館は独自のプログラムによる一般向け映画上映を毎日行なっているが、別館に充実した映像関係図書館とスクリーニング用施設を擁し、アムステルダム大学映画学科の学生たちや各国の映画研究者たちに研究の便をあたえている。本報告者は2001年3月9日から12日にかけて、欧米資本によって製作された、日本を題材にしたフィルム(ドキュメンタリー映画と劇映画の区別を問わず)のスクリーニング(3月9日、10日)および関係図書の調査(3月11日、12日)を実施した。以下に作品名(下線部)、製作年(西暦)、上映時間(min=分)、製作会社名、内容の概略およびその分析を記す。いずれもきわめて貴重な作品ばかりである。なお以下の報告は第一次報告である。

オランダ映画博物館  Eメイル info@filmmuseum.nl
          WサイトFilmmuseum:www.filmmuseum.nl


1 Rijstbouw in Japan (Rice Production in Japan) 1910(?) (4min)
 『日本の稲作』
 Pathe Freres, 部分的にステンシル(型抜き)着色?
 稲刈りと脱穀(千枚?とザルで)風景 
 臼回し(大豆ひき?) 籾殻飛ばし器? 2種 大きな団扇で2枚で(拍手するように)

2 Paysage du Japon (?) 1911 (?min)
 『日本の風景』
 Imperial Film

3 Au Japon, fabrication de getas 1911 (6min)
 Imperial Film (vestiging van PatheFreres)
 →distributor

4 Love Story of Old Japan 1912 (13min)
 『古き日本の恋物語』
 (tinting, toning) The Japanese Film Bern Brewster informant
 基本的にカラー(2色式?)。フェイク時代劇。『大名の裏切り』に酷似。
 一部ティント。
 (物語)洞窟に住む禿頭の剣士と青年剣士の2人組。日本家屋にしのびこみ、女(→白塗り女形風)の寝込みを襲う。縛って誘拐する禿頭男。
 女を取り合って2人の男は洞窟内で剣を交える
 →相手を切り殺して女を元の家に直す禿頭男。すべて白人によって演じられる。

5 Le Japon Pittoresque 1913 (4min)
 『日本風物詩』
 Eclair
 小学生低学年の遠足風景?登場する日本人は老若男女問わず全員和服姿 売りもの屋(担ぎ屋台)
 東京演劇街=浅草の巨大な看板
 吉原 女の絵のかかる窓ガラスを見て歩く男たち 駕籠担ぎ
 鯉幟/赤ん坊を背負う女たちの幸福な笑顔

6 In Japan 1913 (7min)
 『日本にて』
 The Japanese Film(旭日旗がトレードマークの映画製作会社)
 ほとんどの男がインバネスを着用し、カメラを不審そうに睨む
 上野公園 桜並木 不忍池 白亜の西洋建築一杯周囲に(池の中心に東屋あり)→パビリオン 池の上に各国パビリオン?短いロープウェイ 池の上を横断、往復2機   夜は電飾で綺麗、パビリオンの形を覆うように
 松明もってナイトパレード
 中国館パビリオン? のれんの文字表裏逆(裏焼き?) 遊園地メリーゴーランド

7 Kioto et ses temples(?) 1914(?) (7min)
 『京都とその寺』
 Eclair? Pathe

8 Parken in Japan 1915 (5min)
『日本の公園』
 小雪ちらつく公園に人力車、荷車の往来 ジャンプ・カット厭わぬ編集
 犬矢来、羽子板、野踊り、藤棚などの風物詩 季節はどんどん移り変わり、日本の公園の四季のダイジェスト
 京都祇園(八坂神社の)老しだれ桜 菊と女(日本髪)の誇示

9 Japan of Today T 1915(?) (15min)
 『今日の日本』
 Post Weekly Travel Series
 Post Film Company Inc.
 Empire of Japanの地理と人口の説明字幕が挿入され、
 Tokio's Cinema St. には65 picture theatersがあると紹介される浅草  宣伝用の旗幟がビッシリ立ち並ぶ通り
 カメラ目線の立ちどまる男女 Glaring clored postersの字幕
 鉄道に乗るカメラ 歌舞伎風 子供の剣道練習風景 防具つけてカメラに向かって一礼する子ら
 寺社 鎌倉大仏 宣伝(「クスリはホシ(星)」)の入った和傘
 長崎 Japanese cooliesは貨物船に1時間に100トンの石炭を積む
 力車タクシー 10銭(時間) 上野公園、横浜公園の桜並木
 浅草寺(雷門の巨大提灯)
 女は和服に日本髪 既婚女のヘアスタイルと未婚女違うというところ強調する
 6才のときから軍事教練受ける日本人 学校庭運動場でマーチ 学帽に絣着物
 5−13才で英語勉強?

10 Japanese Tuin 1915 (3min)
 『日本の調べ』
日本庭園? カラー 池の傍の藤棚 料亭風
 渋谷公園 
11 Industrie de la soie au Japon 1917 (10min)
 『日本の絹織物工場』
 Pathe Freres, The Japanese Film
 近代的紡績工場で和服に白いエプロン姿の日本髪を結った女たちが働いている→他方、手動製織機も見える→反物を乾燥するプロセスも(カラー)他の部分は基本的にティント→自動織機も見える→ステンシル→場面変わり、女2人が着物をそろって着るシーン(着色カラーで帯も振り袖も全身真黄色→さながら黄色人種たる日本人のカラー再現においてもっとも適した着色であるかのように)→日本髪結った若い娘が帯を結い終わるまでをカメラはとらえ、彼女たちはときおりカメラに向かって笑いかけ、最後にカメラにお辞儀をして映画は終わる。一見したところ絹糸生産からその最終的産物たる着物の着用までの日本の特産物と「文化」の客観的紹介に見えるが、その実、その産業と文化の全工程を女性の身体を中心に織り上げた異国情緒豊かなドキュメンタリーの内部で異国女性の身体のスペクタクル化がひそやかに進展している。ジェンダーとナショナリズムの共同搾取とも言うべき事態。

12 Les Lis du Japon 1917(?) (?min)
 『日本のユリ』

13 Ons levens lied (Our Life Song) 1918-1931 (37min)
 『我らが人生歌』
 Nederland, reportage
 白人男女がバス(列車?)から日本の田舎風景を見ているという設定(ロケ)横浜 神社、鳥居、帆かけ舟、神戸 商店街、力車などの日本風物詩
 突如別シーン挿入(シリーズものゆえの編集の混乱のためか?) 日本における外人宅?、白人親子夫婦 裸の子供(日記映画風)

14 Hokkaida(o?) 1920(?) (5min)
 『北海道』
 海岸沿いの火事、火山噴火によるもの? 燃えている直径1メートルほど岩が転がる、植生がいかにも南方ぽい─燃えるヤシの木(とても北海道の風景には思えない)
 溶岩が海中にあふれて水蒸気爆発状態 そのすぐそばを逃げ出す人々
 
15 Dans I'intimite d'une gheisha 1923 (9.5min)
 『芸者の私生活』
 Pathe (Pathe Baby)

16 Universal-Journal 1924 (6min)
 『ユニバーサル時報』
 ロケ地 横浜
 三角屋根の美しい街並のパノラマ(横浜)と対照的に焼野原の廃墟と化し た街並 関東大震災?

17 Japanese Dames 1925(?) (3min)
 『大和撫子』
 着色カラー 芸者2人 野立て 二分咲き梅の木の下で? 
 yellow + blueの帯2人 はにかんだ笑顔がまぶしい日本女性
 羽子板 生花

18 Rijstculuur in Japan en op het eiland Java
  (Rice Culture in Japan on the Island Java) 1925(?) (13min)
 『ジャワ島における日本の米文化』
 田園(水田)+豪農家 稲穂実り、水田耕作、映画2と同じ脱穀機
 稲藁による茣蓙づくり?×畳表?
 小水車小屋で石臼突き→呑気餅の銘入り
 ↓           焙り餅 焼く女 団扇扇ぎ
 いきなりジャワらしい風景にとぶ→半裸の女たち 
 棚田の美→山の稜線に沿って黒い土手に白い水面が何十層にもわたり、
      「ブラック・レイン」がこのあたりで撮影されたことの原型?

19 Japansche Gebruken (Japanese Habbits) 1925(?) (11min)
 『日本の習慣』
 学帽かぶった絣の着物の少年たち
 カメラの前に押し合いへし合いして集まる 手旗信号の練習─校庭で 袴はいて
 銃(→フェイク)剣(→本物)らしきもの担いで行進
 子供相撲─勝ち抜き戦 本物の力士も延々と相撲をとる描写(メイン)
 何度も「待った」(立ち会いの難しさ)すら描く

20 Les Miracles du cinema 1927 (26min)
 『映画の奇跡』
  Universal(?)
  電話の報をうけて三脚とカメラを担いで飛行機(複葉機)に乗る2人の
  キャメラマンが取材現場に駆けつけるという設定
  1座礁した巨大船
  2日本の火事の様子少々
  3ツェペリン号飛来
  4爆撃カンセンゴチン
  5ロデオ
  4氷山
  5捕鯨船
  6台風(大時化)の中をゆく船 
  7ツェペリンからの眼下の眺め
  8レーシング・カー
  9イナゴ大群
  10パラシュート・ダイビング
  11ローマ法王御輿?
  12閲兵式

21 Island Empire 1935(?) (8min)
 『帝国島』
 James A. Fitzpatrick

22 Journal 1935(?) Nederland (22min)
 『時報』
 Tokyo ヒロヒト

23 The Four Hundred Million 1937 (49min)
 『4億』
 ヒロヒト History Today Inc.
 Joris Ivens Dudley Nichols (commentater)

24 Tokyo-Peking 1938(?) (13min)
 『東京−北京』