CMN! no.1(
Autumn.1996)
田中登監督ロング・インタビュー
「優美なる死骸遊び」に魅せられた作家、プログラム・ピクチャーの遺産
4.宮下順子、『丑三つの村』、古尾谷雅人、『妖女伝説'88』
−−ちょっと俳優さんの話に続きますとですね、宮下順子さんなんかはそういった
意味ではいかがですか。女優さんとして、かなり監督の映画の中で宮下順子さんが光
ってると思うんですけども。
田中 宮下くんの場合は十年で十本作ろうかっていうような気持があって、いどさん
と一年に一本ずつ作っていって、じゃあ宮下くんで一年に一本ずつ作ってこうかって
って、4本まで作ったんですよね、いどあきおで。彼女、まあロマンポルノに出てい
ただいた女優さんたちっていうのはみんなね、素晴らしいね。どの人も素晴らしい。
みんな可愛いよ。それでやっぱりね、生き方が本物ですよ。てなもんだから、順子で
あろうが、明香であろうがね、どんな俳優さんに至ってもやっぱりそうですよ。だか
ら監督の中ではこの俳優さん、この俳優さんってあんまりこう区別はないんですけど
。
−−キャスティングは監督が決められますか。これはやはり企画の方……。
田中 映画の場合には監督がほぼ決めますね。まあプロデューサーももちろん入りま
すけどね。やっぱりそれは監督の大きな仕事だと思いますよ。
−−松竹と富士で撮られた『丑三つの村』に古尾谷さん出てますけども、これもやは
り田中監督がそれを決めることができたんですか。
田中 古尾谷くんはね、あれ、プロデューサーが奥山くん、今度『RANPO』撮っ
た奥山くんがプロデューサーとして三本目のシャシンですよね。あれはキャスティン
グイメージでは奥山くんが最初あったんじゃないかね。古尾谷くんで行きたいっての
はね。まあ古尾谷くんは『女教師』で僕もやってますからね。
−−それで劇場映画としては監督の今のところ最新作というか、最後の劇場作品の8
8年のロッポニカの、ロッポニカというのは非常に短命でしたけども、その中の少な
い1本の『妖女伝説'88』という映画があります。これはファミコンソフト、いわ
ゆるコンピューターの画面の中に死んだ若い女性が主人公を中から呼びかけるといっ
たミステリーなんですけども、そういうデジタル画面の中にも、田中監督はエロチシ
ズムを十分入れてるといった印象を私は持ってますけども、この発想はどっから出て
きたんですか。
田中 あれはねシナリオは『人妻集団暴行致死事件』の佐治乾さんなんですけどね、
佐治さんと21世紀で見れる映画、ラブロマンスの映画作りたいねってのが一つあっ
たんですよね。それと『2001年宇宙の旅』や『惑星ソラリス』なんか出た後でね
、やっぱり俺たちはもうちょっと違った発想でね、何かできるんじゃないかってのが
あったね。
パソコン通信やベンチャービジネス、今のゲームソフトがほんとに芽を吹き出す頃
の辺りから再三と取材していったんだけど、取材に4年か5年掛かってます。だから
パソコン通信は今でも、今でこそだいぶ広がってきたけど、つまり愛のあり方に一回
も顔合わしてない男と女、言葉を一回も交わしたことのない男と女が時間と空間を越
えてね、パーッと出会えてそこから深まってくような一つの愛の形もあっていいんじ
ゃないかっていうことをしきりにあの時考えたんですよね。そしたらそういう話が段
々膨らんできて、必ずしも男女が目の前で会って愛が芽生えるっていうような形だけ
の愛の形だけじゃないんじゃないか。主人公はアメリカでもう既に死んでるんだけど
ね、パソコン通信から一つの霊魂が呼び戻されるっていうような形でもって一つの非
常に純粋化された、観念の中で生まれた愛の形から逆に生身のリアリティーの愛の形
を持ってくるっていうか、そういうような逆の作業があってもいいんじゃないかって
ことをしきりに考え、それとコンピューターの中って美しいんですよね。
−−そういうシーンがありますね。そういう説明をする……。
田中 ええ、未来都市に近いようなシーンがたくさん感じられるね。だから最後の、
彼女が彼のために自分の身を投げて空中を落下していって、金粉に変わっていく、金
粉が空中へ舞い上がって、最後にはパソコンソフトを完成した少年の手の上でね、ち
ょっと止まってそしてチカッと光るっていうカットのヴェリ・クローズアップにして
あるんだけど、やっぱりあれは未来型っていうかなんか本当の愛のメッセージ、これ
から予想される21世紀に予想される愛のメッセージの男女の関わり合いはああいう
形もあってもいいんじゃないかということなんですよね。
日本の評論家はあれをオカルト映画だって言うんだよね。困っちゃうんだよね、こ
れもまた。つまり僕がそういうオクターブを上げて撮った映画はね、概ね評判悪いん
だよ。ちっともね、時代相なんか本当のハートを見抜いてくれないんだよね。だから
映画評論家は凄く信用もできるけど、やっぱりこれは見てくれる人各々が見て感じる
しかない。
まあ『妖女伝説'88』は88年のメッセージなんでね、だから金粉に変わった女
のチカリの愛のメッセージは多分21世紀になったらこういう男女の愛の形ってもの
はね、非常に当たり前に見えてくる時代が日本にも出てくるんじゃないかなというこ
とを予想して作った映画ですから。
−−時間の方がそろそろ迫ってきました。最後の質問なんですけど、今テレビドラマ
を年間2本から3本くらいのペースでだいたいお撮りになっておられて、ズバリ、劇
場作品の予定や監督が進めておられる企画をできたら。
田中 これは秘密なんでね。黒沢さんの向こうを張ってね。それは冗談だけど(笑)
。その問題が自分で解決したときにね、やります、だから。いつでもやりたい企画は
何本か自分の中で、今、あります。だからそろそろっていうか、映画を撮らないと怒
られてばっかりいるんでね、なんかそういう志で、田中登が撮った映画が、次はこん
なことを考えていたのかってことが少しでも出るようなものをね、できるだけ早くや
りたいと思っています。だから、まだ老けこんでいられないですわ。もう一回若い人
に負けないように。
−−今日のお客さんはそういう意味では田中フリークといってはばからない方もいら
っしゃると思うので、その辺の期待に答えていただきたいと思います。
田中 これから映画を志す人も中にたくさんおられると思うからね、世の中って広い
もんだってこととね、映画はおもしろいものだってことをね、やっぱり映画を愛して
もらいたいっていうか、うん、そんなことかな。
1996 8/30
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