CMN! no.1 (Autumn 1996)
映画日記
   

竜巻映画の引用手腕---「ツイスター」

磯碕究太郎

 昨日「ツイスター」を見た。 劇中、恐怖映画「シャイニング」がうまく引用されている。ドライヴ・イン・シアターで「シャイニング」上映中に竜巻(ツイスター)が襲ってくる。スクリーン上では、おりしもジャック・ニコルスンが斧で部屋の扉をこわしている。そこに竜巻到来となる。スクリーン上でどんどん扉がこわされている最中に、猛烈な竜巻がやってきて、「シャイニング」を映している屋外スクリーンそのものをこわしてゆくから痛快だ。  例の双子の姉妹のシーンも引用されている。その理由も明快だ。このドライヴ・イン・シアターの直前のシークエンスに、双子の竜巻が登場する。つまり「ツイン・ツイスターズ」と「ツイン・シスターズ」との語呂合わせである。  そのほかにも随所に古典的ハリウッド映画が引用されている。竜巻とくれば、「オズの魔法使」とくるのがハリウッドのジャンルの規則というものだが、ここでは寸胴小太りのドロシー(ジュデイ・ガーランド)本人ではなく、彼女に見たてたドラム缶数本が登場して、それぞれドロシー1号、2号、3号と呼ばれている。「オズの魔法使」のかわりに引用された、晩年の「スタア誕生」のしおたれたジュデイ・ガーランドの容姿も印象的である。ほかにもキートンのスラップステイック映画への正当なる言及がある。  「ツイスター」は同じ監督(ヤン・デ・ボン)の手になる「スピード」などに比べれば百倍かた良くできた映画である。