Back to HOME
序章   第1章 第2章 第3章
   結論

 第1章において、筆者は『エイリアン』について論述した先行研究に対する批判を行い、この映画に対する新解釈を提唱した。すなわち、未開の土地で航海者が遭遇した恐ろしい「他者」と、乗組員を犠牲にしてでも標本を持ち帰らせようとする会社の非情な「使命」とをテーマに掲げ、航海に関する伝承や過去の航海における記述と『エイリアン』との比較検討の必要性を主張したのである。
 第2章において、筆者は古代の「ゴリラ伝説」や、史実における食人の風習をもつ人々との遭遇を検証し、未開の土地で航海者が体験する恐怖の共通性を、見る者の人間の定義を混乱させるような「他者」との遭遇に見いだせることを明らかにした。
 続く第3章において、『エイリアン』がテーマとしたような「使命」の歴史的発生段階を検証・分類し、『エイリアン』とバウンティ号の反乱事件や黒人奴隷の歴史との間に近似性を見いだした。あわせて、「他者」との遭遇によって引き起こされる惨劇と、非情な「使命」によって引き起こされるそれとが、実際には同時に起こり得ない性質のものであることも明らかにした。
(『キングコング』には「他者」との遭遇はあるが「使命」がない。「バウンティ号の反乱」には「使命」はあるが「他者」との遭遇がない。)
 
 以上の考察から、次の結論を導くことができるだろう。
 『エイリアン』は、舞台をSF時代に移すことによって、「他者」との遭遇に「使命」を帯びさせること、あるいは逆に、「使命」の対象を「他者」に置き換えることを可能にし、本来別個の恐怖であった「他者」との遭遇と非情な「使命」とを統合して一度に表象した映画なのである、と。
本稿は1998年度に京都大学総合人間学部に提出された卒業論文である。
序章   第1章 第2章 第3章
Back to HOME